相続入門
「相続」と聞けば、皆さん「『相続』でしょ?」と考えると思います。ても、そもそも「『相続』って正確にはどういうものですか?」と訊かれれば・・・そういえば何て言えばいいんだろうってなりますよね?
相続のお話をするには、まず「相続」とは何か?を、法律的に、正確に理解することが出発点です。今回は、一番基本の「相続」をお話しします。
いきなり結論!!
いきなりですか、まず結論から言いましょう。
「相続」とは-
「相続権を持つ人が、相続が始まった時(死亡した時)と同時に、特別な手続きなど一切関係なく、自動的に相続財産の全てを丸ごと全部受け継ぐこと」
え???「同時」??「自動的」?!「一切の手続きなし」??「丸ごと全部」??
何か思っていたのとちょっと…というか違いすぎる~!
と思われた方も多いかもしれませんね。
でも、民法を解釈すると、相続はこのような内容であることが分かります。
民法の定め
「相続」とは何か?については、民法に相続の効果という内容で定められています。
民法896条(相続の一般的効力)
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
この民法896条本文を分解して解釈すると・・・
「相続」とは-
➀相続人(相続する人)が、
②相続開始の時から即時
③被相続人(相続させる人)の財産に属する権利義務を
④包括的に承継すること
です。これを一つずつ見てみましょう。
➀相続人
「相続」が起きた時、亡くなった方(被相続人といいます)の相続財産を承継する権利(=相続権)がある人のことを「相続人」といいます。相続権については民法に定めがあります(民法886条以下)。相続人や相続権ついては、これだけで大変ボリュームのあるお話ですので、より詳しく別のページで説明します。
相続では、原則として「相続権」を持つ人=「相続人」だけが承継します。
②相続開始時から即時
相続が開始するのは、被相続人(相続させる人)が死亡した時です。
民法882条(相続開始の原因)
相続は、死亡によって開始する。
逆に言えば、たとえ民法の規定で相続権があるとされる人も、相続開始前(死亡前)であれば、相続が開始された時に自分が生存していれば相続人になりうる、というあくまで推定相続人でしかないので、まだ起きてもいない相続について、相続開始前にあれこれ言うことはできないのです。
相続の開始についても、より詳しく別のページで説明します。
では、「即時」ってどういうことでしょう?民法896条にはそんなこと書いてありませんよね?
これは、起きた相続を望まない人が相続をやめるという相続放棄の条文を見れば分かります。
民法939条(相続の放棄の効力)
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
この条文では、相続放棄をした人は、相続放棄をした時から「相続発生の時に」「さかのぼって」相続人ではなかったことになる(=相続しない)、と定められています。つまり、相続発生の時から即時に一応相続が起きていることを前提にしています。
このように、相続は、相続が開始されると、相続人は即時に相続します。これは、相続は相続開始の時と同時、つまり即時に相続し、時間的なズレは起こらない、と民法では考えられています。
また、その相続について相続人側の事情に関係なく、特別な手続も不要です。
さらに、相続人がその相続開始を知っているかどうかも関係ありません。これは、相続している・していないというあいまいな時間があると、相続財産に関係する人(利害関係人)が法的に不安定な立場に置かれてしまうため、早急に相続財産の帰属する人を一応確定しておく必要があるからだと言われています。
民法学では、このことを「法律上当然に」と表現しています。
このように法律上当然に承継するとすれば、そのまま確定してしまうようなら大変です。事情があって起きた相続を受けたくないという人も、当然いるでしょう、そのために相続放棄という制度があります。相続放棄については、より詳しく別のページで説明します。
※相続登記は別?!
確かに、ここでいう相続自体には特別な様式は必要なく、相続自体は起きるのですが、銀行口座や積立金などの金融資産は、金融機関での実際の各種手続きは必要です。
わけても不動産の相続登記については、不動産登記法や民法の改正によって事実上の義務化が定められました。その上、第三者との関係で登記しないと大きなリスクもあります。これらについては、より詳しく別のページで説明します。
③被相続人の財産に属する権利義務
相続で承継の対象となるものは、被相続人の財産に属する権利・義務の全てが原則です。
ここで注意が必要なのは、「権利」と「義務」なので、お金や支払ってもらえる権利(債権)のみならず、支払い義務がある負債(債務)もまた相続の対象となることです。
相続の対象(相続財産の範囲)については、大変難しいものも沢山ありますので、より詳しく別のページで説明します。
自然人(人間)
- 被相続人は自然人のみがなれる
- 民法882条が示している通り、被相続人になれるのは自然人(人間)だけです。死亡するのは人間だからです。
反対に、法律上は人として権利義務の主体になれる法人(会社など)は、死亡することはできないので、法人には相続はおきません。
④包括的に承継
人は死亡すると人格を失い、生前に持っていた権利義務の主体になることはできません。民法896条本文に「一切の権利義務」とあるように、相続では、被相続人の権利義務の一切合切を全部一括して承継させ、それまでの権利義務の主体を映していく制度が相続です。このような承継を法学上では包括承継(または一般承継)と呼ばれています。
相続では、被相続人の権利義務のうちの一部だけ承継する(特定承継)というのではなく、また権利義務の全部といっても一つ一つをバラバラに承継するのでもありません。相続開始の時に、全ての権利義務が一括して承継されるのです。
ただし、いくら包括承継といっても、被相続人にのみ許され、その他の人に相続などで承継させることが妥当ではないと考えられる権利義務(一身専属権)については承継しません(民法896条ただし書き)。これについてはお話しすると中々大変な内容になりますので、より詳しく別のページで説明します。
まとめ
これまで説明しました内容を整理し、法律的に解釈すると、
相続とは
「相続人が、相続開始の時に、被相続人の相続財産に含まれる権利義務について、法律上当然に包括承継すること」
ということになるので、これを一般に分かりやすくすると、
相続とは
「相続権を持つ人が、相続が始まった時(死亡した時)と同時に、特別な手続きなど一切関係なく、自動的に相続財産の全てを丸ごと全部受け継ぐこと」
ということになります。
このことは、これからいろいろとお話しする相続制度の原則ですので、十分理解しておきましょう。
相続の登場人物は「ん?」
私共が実際のご相談に対応するとき、相談者・依頼人の方々が、割と最初に困るのが、相続に登場する人の法律用語です。「ん?それはどの人の事だろう?」と、つまずいてしまう方が結構おられます。
相続に登場する人が、どの人の事を指すのか、それを理解することは相続を考えるうえで基本中の基本ですので、今回はまず、相続の登場人物を説明しましょう。その他の用語は、その都度説明することにします。
具体的なケース
上の図のようなご家庭のケースで、それぞれの登場人物たちが、相続ではどのように呼ばれるのか、具体的な例で見てみましょう。
➀亡くなったお父様
お父様がお亡くなりになると、お父様の財産について相続が開始します。そして、お父様の財産(相続財産)は、相続するべき人に相続「される」立場となります。そこで、「される」の意味の「被」を付けて被相続人と呼ばれます。
②妻と子供達
お父様の奥様、前妻との間のお子様も含めたお子様全員は、通常、お父様の財産を相続できる人たちですね。相続できるのは、民法で定められた相続権=相続財産を承継できる権利を持つ人だからです。このように民法上の相続権を持つ人の事を※法定相続人といいます。
相続権を誰が持つのか?については、別のページで説明します。
※ただし、相続権があるからといって、必ず財産を承継しなければならないものではありません。
③受遺者
お父様が遺言書を書かれており、しかも相続人に当たらない方に遺言による贈与(遺贈)が行われた場合、その方も相続財産を承継することができます。このような方のことを受遺者といいます。
ただし、相続財産の全てを遺贈するのか(包括承継)、ある一定の財産のみの遺贈なのが(特定遺贈)によって、受遺者の権利義務が異なります。これについては別のページで説明します。
④相続人の親族
この事例では、長女の夫、前妻で娘の母親に当たる方々です。この方たちには相続権はありませんので、当然、相続人には当たらず、遺産分割などには参加する資格はなく、相続の登場人物には、本来当たらない筈です。
ですが、相続の現場では、相続人の親族が相続人に与えている影響力の強さから、現場に介入しようとするなど、相続問題がいわゆる「争族」化してしまい、問題が多発する事例も多くあります。現実の相続では、相続権がない親族こそ大変注意が必要な場合もある、という点は忘れないでおきましょう。
まとめ
以上のように、
相続の登場人物
1,被相続人(亡くなった方=相続される人)
2,相続人(相続権がある人=法定相続人)
3,受遺者(遺言で贈与をされる人)
4,相続権がない親族
という登場人物が考えられます。相続が起きているご家庭の方は、ご自分がどれに当たるのか、特に④の方に注意すべき人はいないかをきちんと理解しておきましょう(相続権の判断方法については、相続権その他のページで詳しく説明します)。