相続相談事例集
相続分と寄与分
Aさん(会社員)には、父甲・母B・兄C・姉D・弟E・妹Fがいます。DさんとFさんは既に嫁がれています。
甲さんは、家(土地100坪・建物50坪)、田(7500坪)、畑(2400坪)、山林(15000坪)および亡くなった時には農協の預金3000万円ほどを保有していました。
甲さんは、Bさん・Cさんとともに、農協を営み、AさんとEさんを大学にやり、DさんとFさんを嫁がせました。全員が独立して家庭を持つようになってしばらくしてから、甲さんが亡くなり、相続が開始しました。
Aさんは、当相談室に来られ、以上のようなご事情をお話しになられた上で、どのように相続財産を分けたら良いかをご相談になられました。
当相談室としては、相続人の皆さんとお会いしてから決めては?とAさんに提案し、Aさんの故郷に一緒に行くことになりました。Aさんの故郷では、遠方に住んでおられるEさんを除き、AさんとBさん・Cさん・Dさん・Fさんが会合を開きました。
Bさんは、「Cに家の土地・建物と、田畑の農地、山林を相続させたい」と意見を言われました。Cさんは、地元の農業高校を卒業してから、甲さんとBさんとともに家業の農業を継がれ、家計を支え、兄弟を大学にやり、姉妹を嫁がせていたからです。これには、その場にいたほかの兄弟全員に異議はありませんでした。そこで、遠方にいるEさんに電話で話したところ、Eさんは、Aさんたちと同様、兄Cさんがいたからこそ自分の今日があるとの思いから、この案に承諾しようとしましたが、傍で話を聞いていたEさんの奥さんE’さんが隣りから話に割り込み、様子がおかしくなりました。
E’さんとしては、「そのような話は、全く承諾できない」と頑として納得しません。Eさん一家の子どもの養育費のために、E’さんとしては、この際少しでももらっておきたい意向のようです。
それまでの話で、まだ何も発言していなかったAさんは、「Eに1500万円を相続させて、残りをBの老後の生活費にあててはどうか?」と初めて意見をおっしゃいました。しかし、それを聞いたE’さんは、一笑に付して全く応じません。
そこで、「Cさんは、甲さんと共に農業に従事し、家計を支えてきたのだから、甲さんが亡くなるまで、甲さんの財産の維持・増加にCさんが特別の寄与してきたと認められるので、Bさん他相続人の皆さんで協議して認められた寄与分を相続財産から差引き、残りを遺産分割の対象として分配することができる」と、「寄与分」の制度を説明しました。
もし、遺産分割協議で決定できないときは、家庭裁判所での調停などの手続きで決定することができることも説明しました。
Aさんは、「こんなときのための制度ではないか」と、相続人の皆さんに話し、Eさんも含め、相続人全員が制度に全く異存がありませんでした。
結局、家・田畑・山林などを全て寄与分として認め、残りはAさんの意見が取り入れられた遺産分割協議書が作成され、全員の調印がなされ、相続登記も終了し、遺産分割は滞りなく終了できました。